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4/29/2007 春のバンクーバー親孝行の旅(後半)遊びのような、仕事のような、慌ただしい3日間が瞬く間に過ぎ、 帰路についたのは日曜日の朝。 前日の夜、友人から初めてその日に地元のマラソン大会が開催されると知らされ、 早めにホテルを出ようと、フロントに車を頼んだ。
予定していた時間になり、フロントからの電話を取ると 「少し早いのですが、そろそろ車を呼んでもよろしいですか?」 「まだ呼んでないのですか?!すぐ呼んでください。」 5分後。 電話が鳴ると同時に母に受け答えを頼み、別れの挨拶もそこそこに部屋を出る。 1階に下りた私を待っていたのは、にこやかな表情のフロントの男性。 「実は、今日このあたりでマラソン大会がありまして、 道路が封鎖されているので、車が入って来れないと言うんですよ。」 「・・・・・」 「どうしましょうかねぇ。。。」 「どこまでなら来れるんですか? その場所まで私が移動しますから、場所を決めて教えて下さい。」 「どこまで来れるのかなぁ。」 「・・・・・」 「ちょっと待って下さいね。もう一度あちらと相談してみますから。」 5分後。 「わかりました!こうしましょう!○○通りと××通りの角にスターバックスがあります。 そこで△△会社の車が、あなたのことを待っています。そこまで歩いて下さい。」 難題を解決した喜びから、さらに大きな笑みを浮かべる彼にお礼と別れを告げ、ホテルを後にした。
待ち合わせ場所まであと2ブロックと迫り、 車のいない2車線道路を渡ろうとした矢先のこと。
-何処からか群衆の近づく気配-
ふと振り返ると、テレビでよく見るマラソンの先頭集団が 1ブロック後方の角を曲がり、こちらに向って突進してくる。
「まずいっ」 と思うも、時すでに遅し。 渡ろうとしていた目の前の通りを、ランナーの集団が駆け抜け、埋めつくす。 次から次へ、まるで濁流のように押しよせるランナーたち。
マラソンをナマで観戦している感動。 素早く動けなかった自分への苛立ち。 飛行機の時間と、待たせている車が気になる焦り。 どうしようもないという諦め。 様々な感情が相まって、思わずその場で声をあげて笑い出してしまった瞬間、 傍で観戦していた地元の男性と目が合った。
「観戦するのに最適なスポットを手に入れたね。」 「いや、そういうわけじゃないんです。 実はここがマラソンコースだということを知らずに、 この先で空港行きの車と落ちあう約束をしてしまったんです。 いったい何人くらいの走者が参加しているんですか?」 「今日のは5万人ちょっとかな。」 「!!!」 実はこの大会、カナダで一位、北米で二位の規模を誇る10キロマラソン大会。 この日の参加者は過去最高の5万4千人。 短距離なのでピッチも早い。
荷物を抱えて立ちつくす私に 「飛行機は何時?」 「××時発の国際線なんですけど。」 「ん~、ちょっと厳しいかもしれないね。」 「・・・・・」 「よし!僕についておいで。」 「?!」 「いいかい、こういうレースは途中で少しだけ『隙間』が空くんだ。そこを狙おう。」 「ねらおうって・・・」 「僕が合図したら、遅れずについて来るんだよ。いいね。」 「へっ?!」
ちなみに私は走ることが苦手だ。 特にマラソンは子供の頃から苦手中の苦手。 マラソン大会など出たことも無ければ、ランナーの気持ちもわからない。 ただこのままでは、いつまでたっても前進できないことだけは確かだった。
あくまでも自然体なその男性の合図とともに 素人目にはとても『隙間』に見えない空間に向ってスタートをきった。 大きな旅行バックを肩に下げ ヒールの高いブーツで道を蹴りながら ランナーたちの合間を縫って斜めに走り抜ける たかが2車線道路がこれほど長く感じられたことは無いし、 道を渡るのにこれほど緊張したこともない。 無事渡りきった瞬間は、まるで自分もマラソンに参加したような達成感を味わった。
最後まで紳士的なその男性に何度もお礼をし、別れを告げ、先を急ぐ。
約束の交差点が近づくと、こちらに向って大きく手を振る男性の姿が飛びこんで来た。 その後ろには△△会社のサインを掲げた車。
「いやぁ、よくあの道を渡れましたねぇ! こちらから見ていて、どうなることかとハラハラしましたよ。」
まるで長年の馴染み客を迎えるように、 そのドライバーは大きな笑みで私を歓迎し、両手で握手を求めてきた。 マラソンで足止めを食らっていた時間だけでも15分はあったというのに、 料金メーターはエンジンとともに休止したまま。 香港から移住して10年。 「ドライバー業は週末のアルバイトでね。」というその男性。 自慢の娘をはじめ、自分や家族、 果ては同じ香港や中国本土、台湾からの移民仲間の話を、おもしろおかしく話してくれた。
3人の男性たちの協力で、無事到着したバンクーバー空港。 昼なお閑散とした空港なのだと実感。 アメリカ行きは専用のゲートがあり、 空港内で米国の入国審査が受けられるようになっている。 この経路を利用する乗客がよほど少ないのか、 生まれて初めて入国審査官と軽口を交わしてしまった。 「(日本語で)あなた“かわいい”ですね。」 「もう“かわいい”という歳ではないので、できれば“きれい”の方がいいな。」 「OK!あなた“きれい”です。」 「ありがと!」
『バンクーバーの人々は実に温厚で親切だ。』
そして再びニューヨーク。 この日は十数年ぶりの暴風雨がニューヨーク近郊を襲い、飛行機は大幅に遅れた。 キャンセルにこそならなかったものの、私の便が到着したのは深夜1時過ぎ。 もちろん空港は乗客でごったがえし、タクシー乗り場には長蛇の列。 あらかじめ車を予約しておいて正解だったと胸をなでおろし、到着ロビーへ。 黒服のドライバーたちが、それぞれの客の名札を持って出迎える中、 私の名前を探すが、どうしても見あたらない。 周囲を見わたすと、少し離れた柱にもたれ、両足を広げて座りこみ熟睡する一人のドライバー。 その胸には大きく書かれた私の名字。 気の毒とは思いつつ、彼の身体をつつき、起きてもらう。
「あ、やっと着いた? 空港に着いてから飛行機の遅れを知ったんで、思わず寝ちゃった。」
ここでもやはり、私は見知らぬドライバーの馴染み客となっていた。
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